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長崎新聞
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【長崎新聞】橋物語・玉之浦大橋(五島) 生活に欠かせない橋

長崎県五島市の海の玄関口、福江港ターミナルから車で約1時間。福江島の南西部、同市玉之浦町小浦地区と、周囲16キロの島山島とを結ぶのが玉之浦大橋(全長170メートル)だ。
 供用開始は1994年4月。完成式典には当時の高田勇知事(故人)ら数百人が出席。住民総出のにぎわいだった。漁師町らしく、持ち寄った大漁旗を橋の欄干などを使って端から端までずらりと並べ、行き交う漁船も旗を掲げて祝賀ムードを演出した。
 島山島の10世帯15人(6月末現在)は、橋のたもとの海沿いにある向小浦地区に暮らす。古くから野生のシカが生息し、住民の数より、はるかに多い400頭以上とみられる。
 「夢の橋ですよ」。島に70年近く住む海端俊子さん(84)は、島民が待望した橋の完成を昨日のことのように覚えている。
 兵庫県出身。両親を亡くしたのを機に、玉之浦町の親せき宅に移り住み、中学3年から島で暮らす。当時は各家庭に小舟があった。学校帰りには、対岸から大声で呼んで迎えに来てもらった。20歳から、島内で50年以上にわたり雑貨店を経営。町の中心部と島を結ぶ定期船はあったが、自ら船を出して商品の仕入れに行った。義父の病状が悪化した際も、医者を乗せて船で往復。強風で流され、命の危険を感じたことも何度もある。それでも懸命に舟をこいだ。
 橋が完成すると、運送業者がトラックで商品を運んでくれるようになった。路線バスも通った。海端さんは数年前から膝を痛めていて、週に数回、行商が食料品を持ってきてくれるのが頼り。「生活に欠かせない橋」と海端さん。
 島で生まれ育った元漁師の山下増市さん(89)も「苦労した先人たちを思うと、橋を初めて渡った時は何とも言えない感慨深いものがあった」と振り返る。
 橋で結ばれた小浦と向小浦の両地区には、親せき同士も多く、小浦地区の大山祇神社で開催される毎年春と秋の神事には双方から住民が参加する。
 橋の完成式典で、住民代表として、妻と祖父母、両親の3世代で渡り初めをした小浦地区の会社員、濱辺正治さん(62)は「シカも渡って来る」と苦笑しつつも、「橋ができて住民の一体感は高まった」としみじみと語る。
 島民の暮らしに欠かせない玉之浦大橋。両岸の住民同士の絆も、固く結び付けている。

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